【録音秘話】

NOWHERE MAN


この曲はビートルズがスタジオ・ワークに凝り始めた時期だったため、
録りっ放しの音はなくヴォーカルにしてもギターにしても
かなりサウンド作りをしていました。
そのため再現するのが大変でした。

何かだんだん、考古学というか考現学というか、
そんな学問をやっている気分になってしまっている今日この頃です。

アカペラ・コーラスで始まったイントロに、
裏のリズムで引っ掛けて入ってくるリズム・ギターのタイミングが意外と難しく、
微妙なタイミングのずれにより雰囲気が変わってしまう為、何回か録り直しました。

ストラト・キャスターの音も、かなりトレブルを効かせ、
ピックが当たったり、弦が指板にあたってビッている音まで聞こえるくらいの硬い音です。
これも再現するのが困難でした。
かなり近づけたつもりですが、まだちょっと心残りがあります。

演奏そのものは音の確認さえ出来れば、それほど難しい場所はなかったのですが、
ジョンとジョージがユニゾンで弾いていると言われている間奏の音質、
及びハーモニックスのヴォリュームや伸ばしの長さなどにちょっと苦労がありました。
ヴォーカルも低音部のハーモニー・パートのメロディが
市販の楽譜などでも意外と正しく書いてないので、
その確認さえ出来ればさほどの苦労はありませんでした。

しかし、その後録音した音を例によって発音のチェックをしてもらうため、
ワシントン近郊在住のDAVE CRIGGER氏に送ってから事態は一変してしまいました。

何箇所かのチェックが入り、録り直しては送り、の繰り返しをやっているうちに、
どうしても注意される発音の違いが、どうしても自分には解からないのです。
ある部分まではパーフェクトなのだが、その場所に来ると、
あきらかに東洋人と判ると言われてしまうのです。
しかも難しいと言われている「R」や「V」や「TH」の発音ではなく、
まったく気にしていなかった「to」とか「You」とか
「his」と「He's」の違いなどの発音でした。

「his」と「He's」は何とか自分なりに判ったつもりなのですが、
「to」と「You」が東洋人と判ると言われても、東洋人なんだから仕方ないだろう、
と開き直る寸前でした。
DAVE氏の奥さんの理香さんの助言で、
唇を尖らせすぎているのでは、と言われ、
唇を横に開いたまま「to」と「You」の発音をして録音しなおしたものを送ったところ、
やっとOKが出ました。

この年になって「to」と「You」の発音が間違っていることにやっと気がついた次第です。

そうやって録音したハーモニーをギターなどと同じようにかなり硬めにイコライジングし、
ビートルズ風にリミッターをかけてやっと雰囲気が出てきました。

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