【録音秘話】

You Can't Do That


この曲も必要最低限の楽器編成で演奏されているので、
ひとつひとつの楽器の音色を似せることでかなり苦労をしました。
イントロの12弦ギターの音が
同じ楽器、同じアンプにも関わらず、同じ音が出ないのです。
一時はこの曲の録音は中止しようというところまで行ってしまいました。
音色だけではなく、12弦ギターのチューニングでもかなりの苦労をしました。
主弦と副弦がひとつのコマに載っているブリッジのため
どうしても主・副2本の弦のピッチが合わないのです。
オプションで12個のコマに別れているブリッジが売っているのですが
まだ手に入れておらず、その為、使うポジションを中心にチューニングをしました。
ステージで使用するのはほとんど問題ないのですが
レコーディングではかなりアラが目立ってしまうのです。
相当細かくチューニングをし、
ギターのトーン・コントロールやアンプのセッティングを
何度もやり直した結果、
何とかレコーディングをやってみようという気持ちになってきました。



つぎは4拍目のウラから入ってくるジョンのリズムギターで、
これはサウンド的にはなんとかクリアしたのですが、問題は間奏です。
一聴ではまったくのアドリブ風なのですが、
レコーディングのアウト・テイクを聞くと
最初のリズム録りからかなりリリースされた音と近いフレーズで間奏を弾いています。
しかし、いくら作られたフレーズだとは言っても
基本的にはジョンがアドリブをまとめ上げていった間奏なので、
まずはメロディを完全に覚え込むことが第一歩でした。
ジョンが弾いた時の気持ちになりきって弾きました。
間奏に入る直前の小節3拍目のウラから8分で4弦、5弦、6弦を叩きつけるように入れ、
フレーズの合間にも4弦、5弦、6弦を叩きつけるように入れていくのが苦労しました。
ライブでのジョンの間奏も、
よく聴くとこの低音弦を叩きつけるフレーズはかなりのポイントになっています。
リッケンバッカー325に張っている弦は
.012〜.052とかなり太いためにチョーキングが結構きつく、
爪が剥がれるのではないかと心配になるほどでした。
ジョンのギターは想像以上に考え抜かれたものが多く、
かなりギターが好きだったんだなと思います。
「I Feel Fine」,「Paperback Writer」「Day Tripper」etc.
コード・ワークから考えていったリフの傑作はほとんどジョンが作ったフレーズなのです。
のちにポールがインタビューで答えていましたが、
スリー・フィンガーを正確に弾けたのはジョンだけだったということだし、
一見荒々しい表現の中にかなり繊細なテクニックが使われているのです。
例えば、この「You Can't Do That」の間奏で2小節目に出てくる
チョーキングひとつをとってみても、
3つあるチョーキングのひとつずつの音程を変え、
スタッカートぎみに弾いているのですが、タッチも微妙に変えています。
これだけでも再現するのはかなり苦労しました。
その他2か所で使っている微妙なハンマリングなど
この短い間奏の中でもかなりのテクニックを使っていました。
もっとジョンのギタリストとしてのフレーズ作りなどアレンジャーとしての
認識がされても良いのではないかと思います。
音楽の理論的な評価はポールが中心にされているのを聞いたり見たりするたびに
もっと良く聞けよ!という気分になってしまいます。
ちなみに間奏のフレーズを録音するだけで数時間がかかってしまいました。


この間奏のレコーディングをしていて、またまた発見がありました。
相当マニアな連中何人かに確かめたのですが、気がついている人は一人もいませんでした。
ギターの間奏のバックで「You can't do that」のコーラスを
ポールとジョージで5回唄っているのですが、
今回の発見というのはその5回のコーラスの間の事です。
その「You can't do that」の前や間や後ろで
「Woo」というハーモニー・コーラスが入っているのです。
ギターのフレーズや、楽器の音に隠れてわずかにしか聞こえてこないのですが
あきらかにやっています。
つぎに出す音の確認を小さな声でしているのかも知れませんが、もしそうなら、
5回目の最後の「You can't do that」のうしろにも「Woo」と入っている理由がわかりません。
とにかく佐々木氏と一生懸命、音を聞き取り、
天才的に耳の良いアレンジャーの萩田光雄氏にも協力してもらい解明したつもりです。
もちろんこのCDでも再現しています。
このページを見たひとは一度聞いて確認してみて下さい。



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